昨年の12月に発刊された小説「少数株主」(牛島信 著・幻冬舎)を読み、あらためて、スタートアップ企業、同族会社、小規模企業における株主について考えてみました。
企業の事業規模はさまざまですが、ここでは比較的小規模な事業会社を想定しています。また、このような企業のほとんどが株式非公開(株式譲渡制限の規定がある)会社と思われます。

 ♦ミニ知識
「同族会社」という用語は、商法・会社法で規定された用語ではありません。法人税法等では次のようにその用語を定義しています。
 会社の株主等(その会社が自己株式等を有する場合のその会社を除く)の3人以下ならびにこれらと特殊関係にある個人および法人が次の場合におけるその会社。
①その会社の発行済株式(その会社が有する自己株式を除く)の総数の50%超の数の株式を有する場合
②その会社の議決権につき、その総数の50%超の数を有する場合
③その会社の社員の総数の半数超を占める場合
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スタートアップ企業・小規模企業・同族会社の株主 前編

(1) 基礎知識

■ 株主総会決議要件 その種類 ■
1. 普通決議Ⅰ:行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数による決議(会社法309条1項)。定款により定足数を排除することも可能。
2. 普通決議Ⅱ:定款によって定足数を3分の1未満にできない普通決議 (会社法341条)。
3. 特別決議:行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上による多数の賛成を必要とします(会社法309条2項)。
4. 特殊決議Ⅰ:議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上による決議(会社法309条3項)。
5. 特殊決議Ⅱ:総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めることも可)かつ、総株主の議決権の4分の3以上(これを上回る割合を定款で定めることも可)による決議(会社法309条4項)。
6. 株主全員の同意:株主全員の同意を要する決議。
※議案や定款の内容により手続きの詳細は異なります。個別議題の決議要件については議案ごとに御確認ください。

(2) スタートアップ企業の株主

創業株主間契約
定款
 起業をすることが多くなっている時代です。その設立前に忘れがちな合意と契約書が重要です。
創業株主が全員取締役になって事業をスタートすることは珍しくありません。創業株主=経営者。

 まず設立準備のフェーズで、お互いの出資比率と議決権の割合を決めることがポイントです。定款の定めと会社法により、議決権割合を何%保有すると何の議題に対して影響を持てるのか、決議要件を考慮して下さい。
創立時に雛形そのままの定款で設立登記をする企業も多くありますが、定款の内容は非常に重要です。定款変更の決議要件は特別決議でもあり、最初の段階で慎重に作成すると後日に役立ちます。

 そして、創業後には経営に関する意見が一致しないこと、あるいは事情により経営者(取締役)が会社を離れるケース、反対に創業株主ではない取締役の就任を要することなど、状況は変化します。事業が順調であれば利益があがり、株式の価値も高くなり、トラブルのタネにもなりやすいのではないでしょうか。
取締役という立場は辞任により退場できますが、株式はそのまま保有するのか、または売却するのか。会社や他の取締役が買い取れるようにするのか、その場合の価格の計算方法はどうするのか。
事業発展のタイミングで株式関連の交渉やトラブル対応をするのは時間の無駄にしかなりません。
創業株主間契約を事前に締結することは有効な方法の一つです。創業時以外では、投資をする(又は受ける)際の投資契約書は一般的になっています。