小さな会社の法務・総務を応援 民法改正~保証「不動産賃貸」「社員の採用」

約120年ぶりの大改正となった令和2年4月1日施行の改正民法は、意外に身近な問題に影響します。
改正点の中で根保証契約における個人保証について、特に下記のケースは見過ごしがちです。
2021年10月のいま、すでに対応はしましたか。

(1) 自社保有の建物など、不動産を第三者に賃貸している。
(2) 少人数の企業や事業所で、採用時に保証人の届出を受けている

◇ミニ知識  「根保証」とは◇
「根保証契約」とは、将来発生する、一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約です。
例えば
・継続している売買取引における、特定の時点での債務
・会社に採用されるうえで、将来生じる(かもしれない)会社へ与える損害
つまり、保証契約を結ぶ時点では“保証する金額”が明確になっていません。

<改正民法>
改正民法では、個人の保証人をおく場合に、その保証人が負担することになる極度額をお互いに合意し、合意の内容として書面等で定めていなければ、根保証契約は無効、と規定されました。

◇ミニ知識 「極度額」とは◇
この場合では、保証する金額の最大限度をいいます。

 

改正民法への対応

(1) 自社保有の建物など、不動産を第三者に賃貸している
不動産事業者であれば改正民法への対応もすんでいることでしょう。
しかし、不動産事業者ではなくても、また個人であっても自社(自己)所有の不動産を第三者に賃貸して収益を得ることがあります。

施行後の保証契約で極度額を定めていない場合は、契約の保証の部分は無効になります。
賃貸借契約における連帯保証人については、次のタイミングでは必ず極度額を定めて書面に記載することが必要です。
a. 改正民法施行(2020年4月)後に初めて合意更新をする
 ┗ 改正前に締結した契約は、その契約期間中は極度額を定めていなくても有効です。
b. 施行後に賃貸借契約を締結する

【参考】極度額に関する参考資料 国土省

極度額の算定方法と表記方法の例
〇〇〇円(契約時の月額賃料の~か月相当分)
契約時の月額賃料(〇〇〇円)の▲ヶ月分  etc.

上記の例の表記であっても、保証契約締結後に賃料の増減があっても極度額は変わらず、契約時の額が適用されます。

(2) 少人数の企業や事業所で、採用時に保証人の届出を受けている
人事労務の担当者を特においていないような小規模事業所でも、社員の採用時には身元保証人を届出てもらうことが一般的です。

余談ですが、保証人本人が身元保証することに同意し署名したことを確認するためには、
「実印の押印+印鑑登録証明書の提出」のように本人だけが取得できる証明を添付してもらって下さい。
いくつかの小規模事業所で、実際には誰が署名したか不明な(証明する書類が無い)身元保証書を見ました。

入社時の身元保証の内容としては、その従業員が入社後に会社に対して与える“かもしれない”損害について全ての賠償責任を保証する、という文言が一般的です。
しかし、はずみで火災発生をさせビル全体が焼失してしまったという場合にもその損害を保証するのではおそろしくて身元保証人になれません。
こちらも賃貸借と同様に、極度額の算定は「当該社員の月給〇か月分」「当該社員の年収相当額」から導くことがよいでしょう。
但し、表記は明確な金額で●●●円、と記載します。

身元保証契約の期間に注意
自動更新は原則としてNGです。
保証が合意された更新かどうか、という点が曖昧では、いざという際の保証契約の意味をなしません。

身元保証契約の有効期間は下記のとおり定めがあります。
【参考】「身元保証に関する法律」 第1条・第2条
・就業規則に期間の定めがないときは3年
・期間の定めがある会社でも最長5年

「身元保証に関する法律」はあまり耳に馴染の無い法ですが、
その3条には会社の通知義務、4条には保証契約解除について規定されています。
※下記は条文内容をわかりやすい文章にしたものです。
第3条  労働者が業務上不適任もしくは不誠実であるために身元保証人に責任が生じる可能性があることを会社が知った場合、勤務内容が大きく変更するなど責任が加重されるおそれがあることを知った場合には、遅滞なく身元保証人に通知しなければならない。
第4条  身元保証人が3条の通知を受けた場合には、身元保証人は、身元保証契約を解除できる。

私見ですが、採用時の身元保証契約には、その対象となる損害範囲や当該従業員の帰責性、また保証人の資力など課題が多く、
それに加えて小規模事業所では、webにある文例や知人の会社の様式を真似て利用することが一般化しているため、事業者サイドで期待するような効果は得られないケースが多いと考えています。

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書籍、webサイト、知人の会社のひな形などを利用することは、事業上でのリスクになるおそれがあります。
契約書作成は専門家に御相談ください。