小さな会社の総務・法務  株主から閲覧・謄写の請求を受けたら

会社によっては社長が一人だけで株式の100%を保有している会社も多くあります。
一方で、まだ規模が大きくない企業でも複数の株主がいる企業もあります。
そのような企業で、株主から「閲覧・謄写等の請求」がきたら総務や法務の担当者はどのように対応すればよいでしょう。

◇基本のおさらい 備置し閲覧に供する等の義務のある書類◇
会社法により会社が備置し、閲覧等の権利のある者の請求により閲覧に供する等が義務づけられている書類について大きく分けたリストです。
詳細には記載していませんので御了承ください。

 総務や法務の担当部署に閲覧等の請求がきたら、どうすればよいか。
  1.請求権の有無と本人確認
  請求権の要件も会社法に細かく規定されています。
 e-Gov 会社法 
 e-Govでの条文であれば、施行日によって異なる版が表示されます。
そこから「定款」「閲覧」など、請求にかかるキーワードで検索すれば、該当箇所に飛び、ハイライトで表示されます。
このような作業により条文を読む習慣をつけることも総務や法務の業務に役立つはずです。


2. 原則として拒否はできない

適法な閲覧・謄写等の請求権をもっている者からの請求に対し、会社は原則として拒否はできません。
但し、正当な請求事由が無い場合には会社は拒否できるという判例もあります。
参考として、株主名簿に関する条文を次に記載します。

【参考】 会社法
第125条 (株主名簿の備置き及び閲覧等) 第3項
株式会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
四 請求者が、過去二年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
4 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の株主名簿について第二項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
5 前項の親会社社員について第三項各号のいずれかに規定する事由があるときは、裁判所は、前項の許可をすることができない。

どのような事由が拒否事由に該当するかの判断は難しく、また該当の立証責任は会社側にあるため、会社が閲覧・謄写等請求を拒否したい場合には事前に法律家に相談が必要です。
会社が故意に拒否したときには、裁判に進むこともあります。
第976条の4号で、正当事由の無い拒否には代表者の過料が定められています。

3. 株主は何を目的に閲覧等の請求をするか
 閲覧・謄写等の請求の目的が何であるかという点が、総務や法務の担当者の実務に影響するものと思われます。
一般に想定される目的は、会計帳簿・計算書類であれば業績の詳細、支出が適正であるか等。
定款、議事録、議決権行使書であれば、株主提案のための調査、会や決議のプロセスの適法性や有効性の確認も考えられます。
 不祥事・業績悪化にあたり、取締役や監査役の責任追及ということもあるでしょう。

4. 実務の問題
 些末な事柄のようで、いざとなると担当者が迷う実務の問題があります。
 ① 閲覧・謄写等の請求書は必要か
  未上場の小規模な会社において、閲覧・謄写のための請求書フォーマットを予め作成してあるという会社はほとんど無いでしょう。
 請求された旨とその後の社内対応の記録にもなり、最初に請求があったときに請求者の本人確認と併せ、フォーマットを作成しておくことも現実的です。
 ② 費用の支払い
  第442条第3項柱書きに費用発生について記載があります。
 会社は社内規程の形式で請求書フォーマットと費用を定めておくこともできます。
 ③ 謄写のための会社のコピー機の使用
  使用させる義務が会社にあるとは確定的に解釈されていませんが、事前にプリント作業やコピー機使用の費用を定めておくことも現実的でしょう。


 複数の投資家(特にventure capital/VC)からの投資を受けてスタートする企業においては、社内担当者も法の理解が必要な場面が多くなります。
日常業務と並行するため時間をとることが難しいのですが、条文を読むことに慣れる・法や施行規則等の構成を知る、などでブラッシュアップしていきましょう。

 また、反対の立場で、例えば相続財産のなかに非上場株式が含まれており、価額算定が必要になる・会社の経営状況を知りたい、ということもあります。
そちらの視点からのコラムはあらためて別に書くことに致します。