改正相続法 ファミリービジネスの家族の遺言

すでに昨年2019年から施行されている改正民法のなか、相続分野、その中でも特にファミリービジネスを親御さんとお子さんで営んでいるような御家族向けのトピックです。

その他の改正点については、すでに以前にコラムを書いています。
1. 配偶者居住権  短期/長期

2.夫婦間の居住用不動産の贈与

3. 遺産分割前の預貯金の仮払い制度の創設

4. 遺留分算定における生前贈与の範囲

5. 相続人以外の親族がおこなった療養看護による金銭請求(介護等の貢献)

6.遺留分減殺請求の効力の見直し

7. 相続の効力等に関する見直し

<特定財産承継遺言>

このコラムで書くのは特定財産承継遺言。
ケースとしては、お子さんのうちの1人が御両親と一緒に、店舗や工場などのあるビジネスを運営しているケースを想定しています。

※※ここでは不動産価格評価方法、遺留分の説明、被相続人の債務の有無等の詳細パターンについては省き、ごくシンプルな例を利用しています※※
実際にお困りの件は御相談ください。

(1)サンプルとするケース

3階建ての建物を父親が所有している。
母親はすでに他界している。
レストランが1階にあり、2階3階は父親の住居。
父親と、2人の子(兄A、妹B)のうち妹が一緒にレストラン事業を運営している。
兄Aは会社員。
AとBだけが法定相続人であるため、法定相続分はどちらも2分の1。

商売は順調で、Bは結婚しているが自身が調理師免許も保有し、両親が引退した後もレストランを継ごうと懸命に働いている。

父親の資産はこの3階建ての建物とその土地、他に預貯金があります。
このような場合、父親としてはこの土地とビルは後継者である妹Bに遺したいと考えるのが一般的です。

改正前の遺言作成では、公正証書遺言で「不動産は妹Bに全部を相続させる。兄Aには預貯金を相続させる。」とすれば、妹Bは不動産を相続できました。

(2)改正民法による変更点

2019年7月1日施行の改正により、上記の遺言に名称ができました。
「特定財産承継遺言」

NEW 民法第1014条
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

ちなみに、民法1014条2項の趣旨は遺言執行者の権限を定めたものです。
改正以前では「~を相続させる」と説明していた遺言の内容にこの条文で名称が付きました。
改正以前にはこの遺言によって遺志は遂げられたのです。
つまり、そのまま妹Bが不動産を承継し、自分の不動産にあるレストラン事業を続けることができました。

しかし今回の改正により、変更された点に留意しなくてはなりません。

NEW (共同相続における権利の承継の対抗要件)民法第899条の2
 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

改正前は、「特定財産承継遺言」があれば、仮に兄Aが先に不動産の相続登記をしてしまった場合でも、その所有権移転は無効であったのですが、改正後は第899条の2の規定により、相続分を超える部分は、第三者に対する対抗要件として登記が必要になりました。
 → ということは、この第三者(このケースではA,B以外の者)が、この遺言について善意であって、不動産の所有権移転登記などをしてしまうと妹Bとしては、遺言だけを拠り所として所有権を主張することはできない、ということです。

◇ミニ知識◇ 善意の第三者と悪意の第三者
この用語は一般の方でも頻繁に目にすることがあろうかと思います。
悪意といっても、他人を害する意思があるという意味ではありません。
特定の事実を知っているか、知っていないかを指し、知っている場合が「悪意」、知らない者が「善意」です。
ただし、離婚問題では例外的に害する意思をいうことがあります。

◆実務にあてはめると◆
例えば兄Bには負債があり返済が滞っていた。
父親の死亡後すぐに、不動産に法定相続分である2分の1を相続登記し、そのまま善意の第三者Rに売却した。
こうなると妹Bは善意のRに対抗できません。

(3)改正後の対応実務~~どうすればいいのか

問題は、改正前に作成した遺言があるとしても、実際に相続発生(遺言者の死亡)が改正後であれば、新しい方が適用されることです。
心当たりのある方は今のうちに、お手許の遺言を確認なさることをお勧めします。

では、今から「特定財産承継遺言」をしたいのならば、どうすればその内容を実現できるのでしょうか。
選択肢としては次のような考え方ができます。

・死因贈与契約・・・妹Bと父親で締結しておき、不動産には仮登記をしておく。
・家族信託・・・不動産を信託財産としておく。

どれも税務、人間関係、etc. さまざまな要素を考慮する必要がありますので、現実問題としてお困りであればぜひ我々のような専門家に御相談ください。

高齢化の進んだ今の日本では、相続する側が御高齢であることも当たり前になってきました。
遺言で自分の意思を明確にし、相続では亡くなった方の気持ちを遂行し、煩雑な手続き完了まで一貫してお手伝いを致します。