放置された不動産~改正法による解決「メガ共有地問題」

この10年ほどで急増したのが「放置された不動産」です。
土地や家屋を相続したが住まない、
けれど都市計画税と固定資産税の特例を受けたいので家は解体しないで放置
空家の管理には費用がかかる。
空家対策特別措置法が2015年に施行されたとはいえ、特定空家等に指定されるまでは・・・と考えるのが人情というものです。
23区内市街地でも素敵な戸建住宅の隣が廃屋、という景色が珍しくありません。
空き家

また、当事務所への遺言の御相談者の中でも、数十年前に相続した不動産の相続登記が未了のままで、「20年前に他界した父親あてに来る固定資産税納付通知」によって20年間、税を納付しているクライアントもそれほど珍しくありません。
その一方で、遠い遠い親族が所有していた土地の相続登記が未了のため、見たことも無い不動産の固定資産税の納付通知が来てビックリするケースもいくつかありました。

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 今回は2021年4月21日に成立し4月28日に公布された「民法等の一部を改正する法律」「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」に関連し、メガ共有の土地問題、相続登記の義務化や土地所有権の国庫帰属制度などの一般市民にかかわるトピックです。
※2021年8月現在で本改正は施行前。

「所有者不明土地の問題」解決のための法改正は大きく次の3つの柱に分かれます。
Ⅰ.不動産登記制度の見直し・・・相続登記の義務化など
Ⅱ.相続土地国庫帰属制度の創設・・・許可を受けて土地の所有権を国に帰属させる
Ⅲ.土地利用に関する民法の見直し・・・遺産分割方法の見直しも

今回は、上記Ⅲ.からメガ共有地問題についてのコラムです。
1. メガ共有地とは
相続が数次にわたり推定される相続人(共有者)が著しく多人数になった土地を、俗に“メガ共有地”と呼びます。
相続が発生(=所有者が死亡)した後に、相続登記をせず放置してある、その中には相続登記はしていないが建物には居住を継続している・農地を利用し収益をあげている、というケースもあります。
1人または数人の土地所有者から2世代3世代4世代とうつりかわるうちに、数十人の相続人によるメガ共有地となってしまいます。

メガ共有状態のまま放置された不動産では下記のような問題が生じ得ます。
① 管理する者が不在で放置され、他人の権利が侵害される。
火事・防犯上や衛生上の問題・樹木が隣地や公道にはみ出して通行の妨げになっている、etc.
所有者が判明していながら、放置されている場合も含みます。

② その土地を含めた地域での開発計画、鉄道敷設、災害予防の施設建設等に対する所有者の同意を得られない。
共有者の中に不明者があり、意思決定ができない。

2. 改正法による手続きの合理化
 このような問題は全国で生じており、一般的にも自宅近隣などで廃屋をみかけることが多くなりました。
現在の民法では、共有物の変更には共有者“全員”の同意が必要です。
また、“変更行為”と“管理行為”(例えば、隣地にかぶさっている樹木を伐採する、etc.)の区別も明確ではありませんでした。

◇ミニ知識  共有物の 保存行為・管理行為・変更行為とは
保存行為:財産の現状を維持する行為。共有物の修理や不法占拠者への明け渡し要求
管理行為:処分・変更に至らない程度の共有物の利用・改良行為。
     賃貸契約の締結や解除、取消。
変更行為:物理的に損傷し又は改変するなど共有物に変更を加えること。
     共有物の性質又は形状を変えること。共売買契約の締結や解除、取消など。

 

改正民法施行後は下記のように手続き等が合理的に変わります。
法務省サイトより抜粋

(1) 共有者の全員の同意までは必要としない行為(変更に該当しない行為)の類型が明確にされる。

【参考】改正後民法第252条第4項
共有者は,前三項の規定により,共有物に,次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって,当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年
二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年
三 建物の賃借権等 三年
四 動産の賃借権等 六箇月

(2) 共有制度の見直し

不明共有者/催告しても意思を明らかにしない共有者がいる場合には、一定の手続きの後に裁判所の関与で変更行為や管理行為ができる制度を新設する。

改正民法第252条2項、
改正非訟事件手続法第85条2項

(3) 財産管理制度の見直し

1.所有者が判明しているが管理されていないために他人の権利を侵害している不動産。
これはメガ共有とは別のケースでも、近隣で実際に迷惑を被っている事例が多くなりました。
→ 管理人選任を可能にする。
2. 個々の所有者不明不動産について
→ 裁判所が命令を発令し管理人を選任する。

(4) 遺産分割の見直し

1. 相続発生(=死亡)から10年以上放置されてしまうと、遺産分割の協議は難しくなるでしょう。
そのため、簡明に遺産分割ができる制度が創設されます。

その他、相隣関係規定の見直しにより隣地所有者がライフラインの敷設をする場合の措置など、現行制度よりは具体的な解決につながる方途ができそうです。

但し、この改正が施行されても相続人の権利も守ることも必要であり、一定の手続き・許可が必要なことには変わりありません。

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