成年後見・家族信託・遺言――長所と短所を補う組み合わせで使う(後編)

後編では、家族信託契約などについて書いています。

 遺言作成の御相談実例でも希望を丁寧にかなえるためには、遺言だけではパーフェクトに希望すべてを担保することは難しいことが多くあります。
当事務所では御本人の年齢や健康状態・延命治療への考え方・遺したい相手(寄付先なども含めます)・亡くなった後の事務作業を包括的に考慮し、下記のように複数の選択肢と組合せを提案しています。

●任意後見契約
●死後事務委任契約
●遺言
●家族信託契約
●その他、財産管理委任契約など

下記の例でも、目的によって死後事務委任と家族信託/任意後見契約などの組合せを検討します。
・障害のある子にできるだけ多く財産を相続させたい
・自分の死後は、子のうち健康な兄弟が財産を管理運用して障害のある子の生活を支援してほしい
・子がいないので自分たちの老後は甥や姪に託したい
・子はいるが孫がいないので、子の死後に財産を寄付したい団体がある
・自分と子が死んだ後の死後事務をしてほしい

(3)家族民事信託契約

信託は複雑な仕組みであり、第一に信託行為の目的をはっきりとさせること、そこから留意点を考慮してプランをたてることになります。
要件をみたせば柔軟に財産の管理・処分が可能です。
遺言とは異なり後継ぎ遺贈の問題でも子から孫へ、その後へと長い考え方ができる制度です。

 

◇ミニ知識  民事信託と商事信託◇
信託の区分には切り口が複数ありますが、よく目にする用語の説明です。
商事信託: 主として信託銀行や信託会社が商品としておこなう営業信託のこと。
民事信託: 民間人がおこなう非営業信託。
「家族信託」であっても商事信託/民事信託のどちらもありえます。
信託銀行などでは「おもいやり信託」「おひとりさま信託」などの名称を付けて営業していますが、
それらの名称は単にその金融機関が付けた商品名であって、法的な用語ではありません。
このコラムで書いているのは「家族民事信託」です。

 

基本となる当事者
信託契約の内容によって、他にも役割を持つ登場人物がありえますが、次の三者が信託に欠かせない当事者です。
a. 委託者:信託の目的のために自らの財産を受託者に預ける者
b. 受託者:委託者の決めた方針で預かった信託財産の管理や処分をおこな者
c. 受益者:信託による益を得る者。

他の制度との比較
おおまかには下記の表のような差異があります。

(4) その他

1. 死後事務委任契約
 死後事務委任契約は、遺言における負担とするには馴染まないこまごまとした死後の実務を委任する契約です。
駐車場などの賃借契約の解約、ペットのゆくすえ、公共料金や病院の支払い等は忘れがちですが、人の死後に発生する事務は大変に多いものです。
中でも需要が高まっているのがデジタル遺産の処理。
故人のSNSアカウントや契約の処理なども考えておくべきでしょう。

2. 尊厳死宣言
 尊厳死宣言については以前のコラムでも書きました。
今は健康でも、いつ何が起こるかはわかりません。
早い時期に、分が延命治療を望むのかそうではないのかを考え、望まないのであれば尊厳死宣言を作成しておくことをお勧めします。

どのような制度を利用する場合でも、いざというときに後悔しないように専門家に相談をなさって下さい。

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